「止水板は何センチのものを買えばいいのか」——多くの解説記事は「設置場所の状況に合わせて選びましょう」で終わっていて、具体的な数値の決め方までは踏み込んでいません。実は、その答えはすでにお住まいの自治体が公開しているハザードマップの「想定浸水深」の中にあります。本記事では、国土交通省の水害ハザードマップ作成基準に基づき、想定浸水深の数値から止水板に必要な高さ・枚数を具体的に逆算する方法を解説します。
この記事の要点
- 止水板の高さは「なんとなく」ではなく、ハザードマップの想定浸水深+余裕分で決められる。
- 国交省の基準では、浸水深は0.5m・3m・5mを境目に色分けされている。0.5m未満の地域と3m以上の地域では、そもそも止水板で対応すべき範囲が異なる。
- 想定浸水深が1m未満なら、玄関・掃き出し窓への止水板設置が現実的な選択肢になりやすい。
- 想定浸水深が3m以上の区域では、止水板単体での対応には限界があり、垂直避難や早期避難を優先する考え方が必要。
- 止水板は「設置面が平ら」であることが前提の製品が多く、この条件を満たさないと数値どおりの性能が出ない。
- 玄関の間口は直線とは限らないため、ストレートタイプとカーブタイプを組み合わせると設置できる形状の幅が広がる。
目次
1. まず自宅の「想定浸水深」を調べる
止水板選びの出発点は、商品スペック表ではなく自宅の想定浸水深です。これは国土交通省または都道府県・市区町村が公表しているハザードマップで、誰でも無料で確認できます。
調べ方(3分程度)
- 国土交通省「重ねるハザードマップ」を開く
- 検索欄に自宅の住所を町名まで入力する
- 「洪水」のレイヤーだけにチェックを入れる(複数の災害を同時に表示すると色が重なって読み取りにくくなるため、1つずつ確認するのがコツ)
- 自宅の位置の色と、凡例に示された浸水深の数値をメモする
お住まいの市区町村が個別に配布している紙のハザードマップでも同じ情報が確認できます。「わがまちハザードマップ」から自治体のページに進むと、より詳細な地域別マップが見つかることもあります。
メモしておく数値の例:「洪水:想定浸水深 0.5〜3.0m」のように、幅で示されていることがほとんどです。この記事では、この幅の上限値を基準に止水板の高さを検討する方法を紹介します。上限値で備えておけば、下限側は自動的にカバーされるためです。
2. 想定浸水深の見方|0.5m・3m・5mは何を意味するか
ハザードマップの色分けは、国土交通省の「水害ハザードマップ作成の手引き」に基づき、0.5m・3.0m・5.0mを境界として設定されています。これは行政が任意に決めた数値ではなく、住宅の構造と対応づけて意味づけられています。
| 浸水深の目安 | 建物への影響 |
|---|---|
| 0.5m未満 | 床下浸水相当。ただし氾濫時は大人でも歩行・避難が困難になる水位 |
| 0.5m〜3.0m | 1階の床上浸水に相当。0.5mを超えると生活空間への浸水が始まる |
| 3.0m〜5.0m | 2階の床面付近まで浸水する可能性がある水準 |
| 5.0m以上 | 2階が水没し、3階の床面まで浸水するおそれがある水準 |
この区分から分かるのは、止水板が本来の力を発揮できる範囲には上限があるということです。市販の玄関用止水板は高さ20〜80cm程度の製品が主流で、これは主に「0.5m前後までの浸水を、生活空間に入れないための備え」として設計されています。3mを超えるような区域では、止水板だけで建物を守り切るという発想自体を見直す必要があります。
3. 【逆算表】想定浸水深別・止水板の考え方
実際の逆算例

| ハザードマップの想定浸水深 | 止水板に求める高さの目安 | 考え方 |
|---|---|---|
| 0.5m未満 | 20〜30cm | 浸水深そのものが低いため、低めの製品でも実用範囲 |
| 0.5〜1.0m | 50〜80cm | 想定の上限値まで数値でカバーできる高さを選ぶ |
| 1.0〜2.0m | 80cm+止水板以外の対策 | 市販の玄関用止水板の上限に近い。土のうや貴重品の高所移動を組み合わせる |
| 2.0m以上 | 止水板だけに依存しない | 建物1階がほぼ水没する水準。避難計画を主軸に据える |
止水板は「浸水をゼロにする」製品ではありません。本記事で紹介している製品も含め、多くの止水板は浸水被害の軽減を目的としており、完全な止水を保証するものではないと明記されています。想定浸水深が高い区域では、止水板を「時間を稼ぐための備え」と位置づけ、避難のタイミングを最優先に判断してください。
4. 高さだけでなく「枚数」も逆算する
止水板は高さだけでなく、間口の幅によって必要枚数が変わります。連結式の製品であれば、1枚あたりの幅を確認し、玄関やガレージの間口を割り算するだけで必要数が分かります。
枚数の逆算式
必要枚数 = 間口の幅 ÷ 止水板1枚の幅(切り上げ)
例:間口140cmの玄関に、幅70.5cmの止水板を設置する場合
140 ÷ 70.5 = 1.98 → 2枚必要
間口が直線でない場合(門柱があって折れ曲がっている、スロープが斜めに接続しているなど)は、直線用のパネルだけでは対応できません。この場合は次章で解説するカーブタイプとの組み合わせを検討してください。
玄関以外にもチェックすべき開口部
- 勝手口・掃き出し窓(庭に面した掃き出し窓は玄関より低い位置にあることが多く見落とされがち)
- ガレージのシャッター下端
- 換気口・通気口(止水板の対象外になりやすいが、浸水経路として見落とせない)
- 隣地との高低差がある側面の塀・フェンス下
玄関の間口サイズが分かれば、必要な組み合わせをご案内できます。ストレートタイプ・内カーブタイプ・外カーブタイプを組み合わせた構成もご相談いただけます。
止水板 ストレートタイプの詳細を見る5. 数値どおりの効果が出ない3つの落とし穴
高さと枚数を正しく逆算しても、設置条件が合っていなければカタログスペックどおりの性能は出ません。特に樹脂製の軽量タイプで見落とされやすい3点を挙げます。
① 設置面が平らでない
多くの軽量止水板は、コンクリートやタイルなど平らな場所への設置を前提に設計されています。地面に目地の段差や砂利、傾斜があると、パネル底面と地面の間に隙間ができ、想定より早く水が回り込みます。設置予定の場所を事前に確認し、必要であれば水平になるよう簡易的な下地処理を検討してください。
② 側面・端部の処理を省略する
止水板は正面からの水は防げても、側面や壁との接続部から水が回り込むケースがあります。壁面との間にエンドパーツを使用する、両サイドの立ち上がりを確保するなど、端部の処理まで含めて設置してはじめてカタログ値に近い性能が出ます。
③ 建物自体の止水性を確認していない
止水板はあくまで「開口部」からの浸水を防ぐ製品です。木造住宅で外壁の目地や基礎の通気口に止水性がない場合、玄関を完璧に塞いでも、別の隙間から室内に水が入り込むことがあります。止水板を導入する前に、換気口・配管の貫通部・基礎の隙間なども点検しておくと安心です。
6. ストレートとカーブ、玄関の形状に合わせた選び方
玄関まわりの間口は、必ずしも一直線とは限りません。門柱で折れ曲がっていたり、スロープと接続していたりする場合、ストレートタイプだけでは隙間が生まれます。

| タイプ | 形状 | 向いている場所 |
|---|---|---|
| ストレートタイプ | 直線状 | まっすぐな玄関・ガレージ入口、倉庫の搬入口 |
| 内カーブタイプ | 内側に曲がる | L字型の玄関アプローチ、門柱の内側の角 |
| 外カーブタイプ | 外側に曲がる | 玄関前の外周、建物の出隅部分 |
間口が直線であればストレートタイプのみで対応できますが、角が含まれる場合はストレートとカーブを組み合わせることで、隙間なく連結できます。同じシリーズであれば連結パーツの規格が揃っているため、後から買い足す形での拡張も可能です。
玄関の形状に合わせて、ストレート・内カーブ・外カーブの3タイプをご用意しています。
止水板カテゴリを見る7. 止水板と土のう、どちらを選ぶべきか
ハザードマップの数値を確認したあと、最後に迷うのが「結局、土のうでもいいのでは」という疑問です。両者は排他的な選択肢ではなく、想定浸水深と、準備にかけられる時間で使い分けるのが現実的です。
| 比較項目 | 止水板(樹脂製・軽量タイプ) | 土のう |
|---|---|---|
| 設置の速さ | 並べて連結するだけ。工具不要 | 土を詰める・運ぶ作業に時間がかかる |
| 1個あたりの重さ | 4〜5kg前後で持ち運びやすい | 水を含むと1袋10〜15kg以上になることがある |
| 保管性 | 重ねてコンパクトに収納可能 | 使用後は乾燥・処分の手間がかかる |
| 初期費用 | 製品により数千円〜数万円 | 1袋数百円。自治体が無料配布している場合もある |
| 止水性能 | 平らな面であれば高い密着性 | 積み方次第で隙間ができやすい |
「毎回土のうを準備するのが大変」「高齢の家族だけで設置しなければならない」という家庭では、軽量で連結式の止水板が実務的な選択肢になります。一方で、想定浸水深が高い区域や、開口部の形状が複雑で止水板の規格に合わない場所では、土のうを補助的に併用する構成も検討してください。
8. よくある質問
Q. 自宅の想定浸水深はどこで確認できますか?
国土交通省「重ねるハザードマップ」で住所を入力し、「洪水」のレイヤーを表示すると、色分けされた想定浸水深を確認できます。お住まいの市区町村が個別に配布しているハザードマップでも同じ情報が確認できます。複数の災害を同時に表示すると色が重なって見えにくくなるため、洪水だけを表示して確認するのがコツです。
Q. 想定浸水深が0.5m未満なら止水板は不要ですか?
不要とは言い切れません。0.5m未満は「床下浸水相当」とされていますが、氾濫時にはこの水位でも大人が歩行・避難するのが困難になるとされています。玄関からの浸水を防ぎたい場合、低めの止水板でも十分な効果が見込めます。
Q. 想定浸水深が2mを超える場合、止水板は無駄になりますか?
無駄にはなりませんが、それだけに頼るのは危険です。市販の玄関用止水板の多くは高さ20〜80cm程度が主流で、2mを超える浸水には対応しきれません。この水準の区域では、止水板を時間を稼ぐための備えと位置づけ、早期の避難行動を優先する考え方が推奨されます。
Q. 止水板は凹凸のある地面にも設置できますか?
製品によりますが、多くの軽量樹脂製止水板は、コンクリートやタイルなど平らな場所への設置を前提としています。地面に凹凸があると、パネルと地面の間に隙間が生まれ、想定した止水効果が低下する可能性があります。設置予定の場所が平らかどうか、事前の確認が重要です。
Q. 玄関の間口が曲がっている場合はどうすればいいですか?
直線用のストレートタイプに加えて、内カーブタイプ・外カーブタイプを組み合わせることで、角のある間口にも隙間なく対応できます。同じシリーズであれば連結パーツの規格が揃っているため、必要に応じて後から買い足すことも可能です。
Q. 止水板と土のう、両方用意する必要がありますか?
必須ではありませんが、想定浸水深が高い区域や、開口部の形状が複雑な場所では、止水板と土のうを併用する構成も検討する価値があります。止水板を主な開口部に設置し、想定を超える水位や不規則な形状の箇所を土のうで補うという役割分担が実務的です。
まとめ
止水板の高さ選びは、「大きめを買っておけば安心」という発想ではなく、自宅の想定浸水深を調べたうえで逆算するのが最も無駄のない方法です。0.5m未満なら低めの製品で十分対応でき、0.5〜1.0mの区域では玄関用止水板が主戦場になります。逆に1〜2mを超えるようであれば、止水板は「時間を稼ぐための備え」と位置づけ、避難計画を主軸に据えてください。
そして、高さと同じくらい重要なのが枚数と設置条件です。間口の幅を測り、必要枚数を計算し、設置面が平らかどうかを確認する——この3点を押さえてはじめて、カタログスペックどおりの効果が期待できます。
まずは自宅の想定浸水深を確認してから
ハザードマップで数値を確認したら、間口のサイズに合わせて
ストレート・内カーブ・外カーブを組み合わせてご検討ください。
参考資料
- 国土交通省「水害ハザードマップ作成の手引き」(令和5年5月改定)
- 国土交通省 ハザードマップポータルサイト「重ねるハザードマップ」「わがまちハザードマップ」
- 国土交通省 川の防災情報「浸水深と避難行動について」
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。実際の浸水想定・避難判断は、お住まいの自治体が公表する最新のハザードマップおよび避難情報に従ってください。止水板は浸水被害の軽減を目的とした製品であり、完全な止水を保証するものではありません。記載内容は2026年9月時点の情報に基づいています。
監修:株式会社グリーンクロス 安全対策用品担当
