技能者の人手不足や働き方の改善が、長らく課題となっている建設業界。現場で働く技能者にとって、キャリアパスや保有する技術の「見える化」はますます重要になっています。そこで登場したのが、国土交通省と建設業団体が官民一体となって推進する「建設キャリアアップシステム(CCUS)」です。
このシステムは、技能者の技術や経験を見える化し、建設業界全体の質を向上させるために導入されました。本記事では、CCUSの概要や導入が推進される理由、導入することで得られるメリットについて、初心者の方にもわかりやすく解説します。
1. 建設キャリアアップシステム(CCUS)とは
まず、建設キャリアアップシステムとは何かを簡単にご説明します。
1.1 CCUSの概要
CCUS(Construction Career Up System)は、建設業で働く技能者一人ひとりの就業履歴や保有資格、受講した講習の履歴をデータベースに登録し、それを活用する仕組みです。登録した技能者にはID付きの「CCUSカード」が発行され、このカードを現場で利用することで、技能や経験が簡単に記録され、可視化される仕組みになっています。
1.2 CCUSが導入された背景
日本の建設業界は、少子高齢化による人材不足や、若手人材の育成が課題となっています。特に、以下のような問題が深刻です。
- ・技能者のスキルや経験が適切に評価されていない。
・若手がキャリアを見通せず、業界への定着率が低い。
・技能者の処遇改善が十分に進んでいない。
CCUSはこれらの課題を解決し、建設業界を「技能が正当に評価される魅力的な職業」に変えることを目的としています。
1.3 CCUSで実現する3つの目的
CCUSは以下の3つの目的を達成するために設けられました。
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1.技能者の能力・経験の可視化
→ スキルや経験をデータ化し、適正な処遇改善を実現します。2.キャリアアップの促進
→ 経験や資格をもとに、技能者がキャリアアップを見通しやすくします。3.業界全体の成長と透明性向上
→ 優秀な技能者を育成し、建設業界全体の質の向上を目指します。
2. 技能者と建設業界の未来を支えるCCUSの必要性
CCUSが導入される背景には、業界全体の持続可能性を向上させるという大きな目標があります。ここでは、導入が推進される理由を解説します。
2.1 建設業界の人手不足と高齢化
国土交通省の資料によると、建設業界では**60歳以上の技能者が全体の約4分の1(25.7%)を占めており、今後10年以内にその多くが引退することが見込まれています。一方で、これからの建設業を支えるべき29歳以下の若年層の割合は全体の約12%**に過ぎません。この状況は、建設業界が抱える深刻な人手不足を物語っています。
さらに、若年入職者の確保と育成が進まなければ、今後の建設現場を支える人材が不足する可能性が高く、業界全体の持続可能性に大きな影響を与えるとされています。
2.2 技能者のスキルの可視化が不可欠
建設業の現場では、技能者のスキルや経験が見えにくいことが原因で、賃金や待遇に差が生じることが少なくありません。CCUSを活用することで、技能者のスキルを客観的に評価し、処遇改善につなげることができます。
2.3 公共工事の入札での加点措置
元請事業者にとっては、公共工事の入札でCCUSを利用している現場が評価され、加点対象となることも大きな利点です。このようなインセンティブによって、CCUSの普及が進んでいます。
3. CCUS導入が技能者・事業者に与えるメリットとは?
CCUSを導入することで得られるメリットは多岐にわたります。ここでは、技能者、事業者、業界全体の3つの視点からそのメリットを解説します。
3.1 技能者のメリット
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1.能力や経験をデータで証明できる
CCUSカードを使うことで、自身の就業履歴や保有資格を簡単に証明できます。これにより、適切な賃金や待遇が得られやすくなります。 -
2.キャリアアップの目標が明確になる
CCUSでは、技能者の経験や資格に基づいてレベル分けが行われます。このレベル分けを参考にすることで、スキルアップの目標が立てやすくなります。 -
3.退職金積立がスムーズになる
CCUSは建設業退職金共済制度(建退共)と連携しており、就業履歴に基づいて退職金の積立が自動化される仕組みです。
3.2 事業者のメリット
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1.現場管理が効率化される
技能者の就業状況をデータで一元管理できるため、人員配置や労務管理が効率的に行えます。これにより、事務作業の負担が軽減され、現場監督者が本来の業務に集中できる環境が整います。 -
2.信頼性が向上する
技能者のスキルが見える化されることで、元請事業者や取引先からの信頼が高まります。また、正確なデータに基づく管理は、トラブルの未然防止やクライアントとの円滑なコミュニケーションにもつながります。 -
3.公共工事での評価がアップ
公共工事の入札でCCUS利用現場が加点対象となるため、事業拡大のチャンスが広がります。さらに、CCUS導入の実績が、事業者の社会的責任を果たしている証として評価されることも期待できます。
3.3 業界全体のメリット
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1.技能の継承と若手育成の促進
若手技能者が明確なキャリアパスを描けることで、業界への定着率が向上します。さらに、技能者の経験やスキルがデータ化されることで、効果的な研修プログラムや教育計画の策定が可能になります。 -
2.業界イメージの向上
技能や経験が正当に評価される環境を整備することで、建設業界の魅力が向上します。また、透明性が高まることで、一般社会からの信頼や若い世代の関心を引きやすくなり、人材の新規参入を促進します。
4. CCUSの現場での活用事例
CCUSは建設業界で徐々に普及し、現場における具体的な活用事例も増えてきています。ここでは、導入効果が特に注目される事例をいくつかご紹介します。
(参考:建設キャリアアップシステム推進本部 15社における優良取組み事例集 )
事例1:確実な入退場管理を実現
本社・支店・現場に専任担当者を配置し、情報共有と展開を進めています。特に顔認証システムを導入し、技能者の確実な入退場管理を実現しました。また、協力会社向けEラーニングや技能者登録会の開催を通じて、普及促進を推進しています。
事例2:代行申請活用とポイント制度
協力会社向けの代行申請受付を実施し、登録スピードを向上。また、現場でのカードタッチや清掃活動などに基づくポイント制度を試行し、安全意識の向上や生産性向上を図っています。
事例3:全社連携とマニュアル整備
CCUS推進会議を設置し、経営トップから方針を共有。協力会社向け簡易マニュアルを作成し、全国で説明会を開催。登録支援チームを設置し、代行申請や技能者登録の普及を進めています。
5. CCUS導入が普及している背景
5.1 業界全体でのデジタル化の進展
建設業界では、近年「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が進んでいます。CCUSはその一環として、建設現場の情報管理をデジタル化し、効率化を図る取り組みの中心的な存在となっています。特に、就業履歴や資格情報を一元管理することで、事業者・技能者の双方にメリットをもたらす点が評価されています。
5.2 政府の推進とインセンティブ施策
国土交通省をはじめとする政府機関は、CCUSの普及を加速させるためにさまざまな施策を実施しています。その一例として、公共工事での加点措置やセミナーの開催、登録費用の一部を補助する制度などがあります。こうした取り組みによって、特に中小規模の事業者でもCCUSを導入しやすい環境が整いつつあります。
6. まとめ
建設キャリアアップシステム(CCUS)は、技能者や事業者に多くのメリットをもたらすだけでなく、業界全体の発展にも寄与する画期的な取り組みです。
技能者にとってはキャリアアップを後押しするツールであり、事業者にとっては効率化や信頼性向上の手段として重要な役割を果たします。また、若手技能者の確保や国際競争力の強化など、未来を見据えた効果も期待されています。
今後ますます普及が進むと予想されるCCUS。この機会にぜひ導入を検討してみてはいかがでしょうか?