台風シーズンが近づくと、工事現場では安全管理への警戒が一気に高まります。特に注意すべきは強風です。強風が多い時期は、仮囲いや足場の倒壊リスクが高まり、瞬間的に吹き上げる突風によって資材や工具が飛ばされ、人身事故や近隣への被害につながるケースも少なくありません。
現場の責任者としては、「台風が来るたびにヒヤッとしている」「対策をしているつもりだが十分か不安」という方も多いのではないでしょうか。この記事では、「工事現場の台風対策」に必要な事前準備・判断基準・再開までの流れを、チェックリスト形式でわかりやすく解説しています。
あわせて、現場で使えるおすすめの安全用品や、法令で求められる対策も紹介していますので、ぜひご活用ください。この記事をきっかけに、強風を含む台風リスクに対する備えを今一度見直してみませんか?
【被害事例あり】なぜ台風シーズンの工事現場は要注意?
台風は毎年日本列島に接近、上陸し、各地の工事現場にも影響を及ぼしています。特に建設中の現場は、構造物が未完成で仮設設備も多く、風・雨・飛来物の影響を受けやすい状態です。
工事現場で発生した台風被害の例
以下は、台風や強風によって実際に発生した工事現場での被害例です。
解体作業で足場が転倒
⇒ 強風下でジャンプ足場を解体中、ネットや部材の取り外し作業中に突風が吹き、足場が倒壊した事例があります。
仮置き資材の倒壊による事故
⇒ 型枠材(重量約3トン)を強風下で仮置きしていたところ、突然の突風で倒れた資材に作業者が挟まれた事故が発生しています。
その他にも、資材の飛散による被害や電気系統のショート・感電事故など、強風や大雨など台風の際には事故が起きやすいため注意が必要です。現場事故は、風速の速さや雨の量そのものよりも、「作業を中止しなかった」「対策準備が間に合わなかった」「確認が不十分だった」ことに起因しているものが多いです。現場関係者には台風や突風、大雨に対する知識や準備が求められています。
現場停止による損害(工期遅延・補償・労災リスク)
強風や大雨など台風による事故が起き、作業中止や現場停止になった場合は、現場全体のスケジュール・コスト・信用に大きな影響を与える可能性があります。
想定される主な損害・リスク
・工期の遅延
台風明けの復旧作業・片付け・安全点検により、作業再開までに数日を要することもあります。
・補償対応
工期遅延によって発注者や施主との調整が必要になります。周辺住民・第三者に被害が出た場合は、損害賠償や謝罪対応も発生します。
・労災リスクの増加
台風接近時や直後に事故が発生すると、会社の安全配慮義務違反が問われてしまい、信頼の低下にもつながります。
事前の対策と中止判断が損害防止の第一歩であり、現場責任者の判断力と準備の有無が明暗を分けます。
台風リスクが高く、対策を強化すべき現場の特徴
台風のリスクはどの現場にもありますが、同じレベルで危険にさらされるわけではありません。次のような特徴を持つ現場では、特に綿密な台風対策が必要です。
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・仮設設備が多い現場
足場、仮囲い、仮設トイレ、フェンスなどは風の影響を受けやすいです。設置から時間が経っていると、固定がゆるんでいる場合もあるため注意が必要です。 -
・屋外作業中心の現場
クレーン作業・解体・建て方など、高所作業や大型資材を扱う現場では風速による中止判断が特に重要になります。 -
・海沿いや埋立地など遮へい物のない立地
地形によっては、ビルの谷間や開けた場所で風速が倍近くになるケースもあります。 -
・密集市街地の現場
資材が飛散した場合に周辺住宅や通行人に被害が及びやすいのが密集市街地です。第三者災害に発展するリスクがあるため、早めの撤収判断が求められます。
現場の条件に応じたリスクの見極めと、場所ごとの「優先すべき対策」の選定が、効果的な台風対策には欠かせません。
法令・ガイドラインで求められる工事現場の台風対策とは?
工事現場の台風対策は、現場の自主判断に任されているわけではなく、国の法令や業界団体のガイドラインで明確に求められている事項があります。以下に、重要な台風対策ポイントを整理します。
労働安全衛生法と規則で定められた作業中止の義務
台風接近時や荒天の際、現場で「このくらいなら作業できるかも」と判断してしまうことは非常に危険です。労働安全衛生法および労働安全衛生規則では、悪天候下での作業を中止する義務が明確に定められています。
労働安全衛生法 第26条では、「事業者は、労働者に危険が及ぶおそれがある場合には、作業を中止し、必要な措置を講じなければならない」とされており、台風による強風・豪雨・落雷などはまさにこれに該当します。
そのため一定以上の悪天候の場合は、作業の中止が法的に義務とされています。これは努力義務ではなく、実行義務(違反すれば行政指導・処分の対象)です。
作業中止にあたる作業内容
台風接近時や荒天時には、安全確保のために作業を中止しなければならない作業内容が法令により明確に定められています。特に、労働安全衛生規則やクレーン則などにおいて、高所作業や重量構造物の作業、建設機械の運用などは厳しく規制されています。
ここでは、代表的な中止対象作業をカテゴリ別にご紹介します。
▶ 高所作業・足場関連(労働安全衛生規則)
・高さ2m以上の場所での作業
・足場の組立・解体・変更作業
▶ 大型構造物・重量作業関連
・型枠支保工の組立・解体作業
・鉄骨など高さ5m以上の金属構造物の組立・解体作業
▶ 建設機械・クレーン作業関連
・クレーンの組立・解体作業
・ゴンドラを使用する作業
▶ 強風時に中止すべき機械作業
・移動式クレーン作業は強風時中止
・デリックを用いる作業も強風時には中止
▶ 暴風(瞬間風速30m/s超)時に必要な設備措置
・屋外クレーンの逸走防止措置
・屋外エレベーターの倒壊防止措置
※参考資料「労働安全衛生法関係法令において、悪天候 時、地震等の発生時及びその後において講じなければならない措置」
悪天候の判断基準
労働安全衛生規則の中では、「悪天候の目安」として以下のような基準が示されています。
※参考資料 練馬区建築・開発担当部建築審査課構造係「工事現場における悪天候や異常気象への備え」
また「悪天候」には、気象注意報または気象警報が発せられ悪天候となることが予想される場合も含まれています。台風・強風・大雨時は「中止しても良い」ではなく、「中止しなければなりません」。法令違反による事故発生時は、事業者の安全配慮義務違反となってしまうため改めて確認をしておきましょう。
施工計画段階で定めるべき荒天時の対応方針
現場で強風や大雨が予想される際にどう対応するかを現場でその都度判断していては、安全も効率も確保できません。そこで国土交通省は、施工者に対し、工事着手前の段階で荒天時の中止基準や対処方法をあらかじめ定めることを求めています。
これは、現場レベルではなく、施工計画書などの工程管理上のルールとして明文化しておくことが必要とされています。
・工事着手前に定めておくべき項目(国交省ガイドラインより)
「建設工事公衆災害防止対策要綱」(国交省)第11項に明記された内容です。
公衆災害や第三者被害の多くは対応の遅れで発生しています。また、看板・ネット・仮囲いの飛散や、建機転倒、足場崩壊など、台風による事故の多くは、強風が吹き始めてから、雨が降り出してからなど、台風が来てから対応を始めたケースです。事前に対応策を明確にしておくことにより事故は防ぐことができます。
国土交通省が示す「異常気象時の現場対応指針」について
台風や豪雨などの異常気象が予想される際、工事現場ではどのような行動を取るべきか。この点について国土交通省は、施工者に対して以下のような具体的な対応を示しています。
特に、工事責任者や安全衛生担当者は、マニュアル化・社内共有のうえで実行することが求められます。
気象警報や注意報だけに依存せず、現場での危険予知と柔軟な判断をもとに、安全最優先の対応を徹底しましょう。
【事前対策】台風前に工事現場でやるべきチェックリスト
台風の接近が予想されたら、計画の見直しや警戒班を構成するだけでなく、現場での準備も進めていきましょう。ここでは、作業中止の前後を含めて、現場で必ず確認すべきポイントを項目別に整理します。台風対策は「前日では遅い」ことがほとんど。天気予報を見ながら48時間前には準備開始するのが理想です。
1. 足場・仮囲い・フェンスの固定確認
足場や仮囲い、仮設フェンスは、台風による強風で最も被害を受けやすい構造物の一つです。これらが倒壊・飛散すると、作業員の命に関わる重大事故や、周辺への物損・第三者被害を引き起こす恐れがあります。
特に足場は、高さがある分、風の影響を大きく受け、わずかな締結ミスや緩みが全体の崩壊につながるリスクがあります。また、仮囲いやフェンス類は一見安定しているように見えても、実際には地面との接地部分や結束部分が風雨で緩んでいるケースも少なくありません。
そのため、台風接近前には以下のような項目を重点的に点検し、必要に応じて補強を行うことが推奨されます。チェックは必ず2人以上でダブルチェック体制を取り、記録に残すことをおすすめします。
2. 資材・工具の飛散防止措置
台風時の現場事故で特に多いのが、「軽量資材や工具の飛散」による被害です。板材やシート類、脚立、パイロン、コンテナ、ポリバケツなど、普段何気なく置いている物が、強風で数十メートル飛ばされてしまうことも珍しくありません。これらが通行人や車両に直撃すれば、大きな事故に発展します。
飛散防止は、「片づける・まとめる・縛る」の3つが基本です。資材の種類や配置場所に応じて、以下のような対策を徹底しましょう。
3. 重機・資機材の安全確保
重機や資機材の管理は、台風対策の中でも見落とされやすい分野です。しかし、強風で転倒した建設機械や、増水で流された資機材による被害は毎年発生しています。
特に注意すべきは以下の2点です。
・地盤の緩みによる重機の転倒リスク
・河川近くに置かれた資機材の水没、流出リスク
被害を防ぐためにも、台風接近時には以下のような対応を検討・実施しましょう。
風で倒れた重機は故障してしまうこともあります。メーカーや整備業者による点検が必要になるため、復旧までに数日かかる場合も。「倒さない・壊さない」ための予防策こそが、工期や安全の面でも最大のリスク回避となります。
4. ネット類(防炎・遮熱・暴風網など)の設置確認・巻き上げ
建設現場では、安全・快適な作業環境を保つために防炎ネット・遮熱ネット・防風ネット(暴風網)などが多く使用されています。しかしこれらのネット類は風を大きく受ける特性があり、強風時には足場や仮囲いの倒壊リスクを高める要因になります。
台風接近時の原則は「取り外し」または「巻き上げて固定」です。ネットがバタついたり、風をはらんで足場が煽られたりすると、構造体のバランスが崩れて大事故につながることがあります。特に次のような対応が重要です。
5. 電気・水回り設備の浸水対策
台風時には強風だけでなく、豪雨による浸水リスクも無視できません。現場内に設置された分電盤・コードリール・給水ポンプ・仮設トイレなどの設備は、水濡れによる漏電・感電・故障・悪臭発生などの重大な二次被害を引き起こすおそれがあります。
雨水・泥水の侵入を防ぐ「防水・高所・排水」の3点対策が基本です。
6. 作業員・協力会社への事前共有
現場だけでなく、協力業者・職人・搬入業者などすべての関係者に早めの連絡を行いましょう。
特に重要な共有項目は以下の通りです。
台風対策は「前日・当日対応」ではなく48時間前からの行動が鍵になります!台風や自然災害前の対策については、関係するすべての従業員に共有しましょう。
【再開手順】台風後に安全に工事を再開するための流れ
台風通過後は、高所や仮設物の安全が一見問題なく見えても、目に見えない損傷や緩みが潜んでいる可能性があります。そのため、法令でも特定の作業や設備については、「再開前の点検が義務」として定められています。
1.労働安全衛生規則などで「悪天候後の点検が義務付けられている作業」
現場での点検項目として以下のチェックリストもご利用ください。
2. 安全確認の責任者を明確にする
点検は「全員でなんとなく見る」ではなく、項目ごとに責任者を割り振るのが基本です。また点検して終わりではなく、結果を朝礼などで共有することも大切です。
3. ヒヤリハット共有・反省点のフィードバック
台風によって見つかった設備の弱点や対応の遅れは、再発防止に活かすべき重要情報です。ぜひ「ヒヤリハット報告」としてまとめ、次回台風時の改善材料として記録・共有しましょう。
工事現場の台風対策におすすめの安全用品・対策グッズ
台風シーズンの工事現場では、足場の倒壊や資材の飛散など、さまざまなリスクが急激に高まります。現場の安全を守るためには、事前対策とあわせて、対策グッズの導入が欠かせません。ここでは、現場の被害を最小限に抑えるために役立つ、実用性の高い安全用品・グッズをご紹介します。現場の環境や作業内容に応じて、最適な対策を講じましょう。
■ 吸水土のう 水ピタN型(真水用)
持ち運びが簡単で、いざという時にすぐ使える環境配慮型の吸水土のうです。
吸水後は約10kgまで膨らみますが、使用後は脱水剤で元のサイズに戻せるため、処理も簡単です。
・緊急の浸水対策・水害対策に最適
・ペットボトル再生素材を使用したエコ設計
・未使用時は軽量・コンパクトで保管にも便利
■ ボックスウォール BW52(止水板)
土のうに代わる次世代型の洪水防護システム。水圧を利用して置くだけで設置できるため、短時間で広範囲に展開可能。ゲリラ豪雨や急な浸水への備えに最適です。
・工具不要・コンパクト収納
・軽量で1人でも簡単に設置可能
■ 透明養生テープ(48mm×25m)
目立ちにくい透明タイプで、台風養生や資材の簡易固定におすすめ。日本製の高品質で、手で簡単に切れるため作業効率もアップします。
・ポリエチレン+合繊布のしなやかな基材
・オフィスや家庭用の防災対策にも活用可能
■ ブルーシート #3000(2間×3間/3600×5400mm)
定番の強化型ブルーシート。大判サイズで、工具や資材の広範囲な養生にぴったり。
防水性と耐久性に優れており、長期間の屋外使用にも安心です。
・雨風対策・仮設資材の飛散防止に
・重り、ロープ、養生テープとの併用がおすすめ
・野積み用、農業用など幅広く活用可能
台風対策は備えてこそ安全
強風や大雨は、予測できるリスクと言えます。もしもの備えをしっかり行い、いざという時に慌てないようにすることが安全対策の第一歩です。この機会にチェックリストや法令を活用しながら、現場の安全対策を確実に進めてください。現場の安心は、準備と共有から生まれます。